近頃はやりのノーコードにローコード。
これは「じゃぁいっちょ社内業務をアプリ化しようか!」とその世界に踏み込んでいったとある会社の情報システム担当の物語です。
当時私が在籍していた企業(以下、A社)では週報をメールで、休暇申請含む勤怠管理をExcelで行っていました。人材派遣系を中心に今もこの方法をとっている企業は相当数あると考えています。
件名がまちまちで仕分け漏れが発生、担当営業変更による送信先漏れ、人それぞれの報告フォーマット…営業部長から筆者に週報と勤怠管理の(低コスト)システム化の指示がおりました。
ここで曲者なのは(低コスト)!いくつかの既存製品導入の見積りを取り寄せた筆者は肩を落としながらその見積りをアーカイブフォルダに押し込み、ネットの海をさまよい、そうしてノーコード/ローコードアプリにたどり着きました。いくつかのアプリを作り、これならばの光明、社内業務アプリ化計画のスタートです。
事例1:そのデータ、この業務にも絡んでます
まずは週報アプリからです。営業部門からのオーダー通り、指定された報告項目用の入力エリアを配置したアプリを作りました。
次は勤怠管理アプリです。営業部門からのオーダーは
・先々月分、先月分、当月分の勤怠を一覧で見ることができる
・出退勤の他、休暇申請もアプリで行う
でした。出退勤アプリは購買申請アプリと並んでノーコード/ローコード開発のサンプルとして取り上げられることが多いので、その時の筆者は「そうですかぁ」と要件をPCに打ち込んでいました。経理責任者のTさんが打ち合わせスペースの横を通るまでは。
Tさん「あ、勤怠報告、とうとうオンライン化するんだ」
営業「そうなんですよ。これで毎週のメール仕訳ルール更新とおさらばできる…」
Tさん「いいねぇ。Excelの勤怠表、システムに1つ1つ入力しなおすの大変だったのよ」
※人材派遣の場合、派遣先のフォーマットで勤怠登録を提出されるのはよくあることです。
Tさん「押印済PDFでくる場合なんかもうね…見せて見せて」
ひとしきりアプリ画面をチェックしたTさんがキラキラした表情でおっしゃいました。
「うん、いい感じ!これ、毎月、勤怠データを給与計算ソフトに自動で流してくれるの?」
当たり前ですが、勤怠データがあるということはそれを使った給与計算(給与明細出力)業務もあります。
インポート用フォーマットは給与計算ソフトごとに微妙に異なります。
そして、給与単価、手当額、源泉徴収額は社員一人一人異なります。
愕然としている筆者とTさんの横でアプリ画面をのぞき込んでいた人事労務担当のUさんの目があいました。
「もしかして、有給休暇管理もシステム化?人によって付与時期も付与休暇の種類も違うから、毎月大変だったんだよ。嬉しいなぁ。あ、法令で決まってるからデータ保管期限は3年以上で設定してね!」
撃沈。
製品として流通しているパッケージソフトならば、このあたりの人事管理・労務管理・給与計算を一体化させ、シームレスな処理を可能としているものもありますが、自前で作るならば、このあたりの仕組みも考えなければなりません。そして、勤怠に絡む祝日は年によって日付が変動するものも多い…。
ノーコード/ローコード開発で「悪いこと言わないから基幹系には手を出すな」と言われる所以です。
事例2:データベースをどこに置く?
どうにかデータ定義、データ連携、権限管理などを設計し、データ量を算出したら、次はどこにこれらを格納したデータベースを作るかです。
ノーコード/ローコード開発の場合、データベースを作る場所として、SharePointサーバーのようなオンプレミスも、OneDrive BusinessやSharePoint Online、AWSのようなクラウドも選ぶことができます。
データ量、運用コスト、アクセス速度、アクセス権管理の面から筆者はSharePoint Onlineのカスタムリストを第一候補として、セキュリティ管理責任者に相談しました。
「ダメ」
えええ?と口を菱形にして声にならない叫びをあげる筆者に、セキュリティ管理責任者は無情にも告げます。
「SharePoint Onlineにそんなデータおいたら、外部流出の原因になるでしょ。OneDrive Businessも。既存製品の情報収集して購入計画稟議あげて」
この計画の根本、へし折られた…!
当然ですが、SharePoint OnlineもOneDrive Businessもセキュリティはしっかりしており、通常の使用ならばめったなことでは情報漏洩に繋がりません。
ただし落とし穴があり、誤って本来利用を想定していないユーザーにアクセス権を与えてしまった場合は…人力管理を行っている以上、セキュリティ管理責任者はそのリスクを懸念したのでしょう。
「では、この管理方法なら!」
「ダメ!」
セキュリティ管理責任者と筆者の攻防は執行役員が通りがかるまで続きました。
後編へつづく・・・