まず客観的に見ることの重要性

私が30代前半の時ですが、最初に大規模なSI プロジェクトのPMを担当したのが、某社の「二輪販売システム再構築」でした。
二輪車販売店の全国500台あまりのF社製オフコン・システムを再構築して、自社のホストシステムに統合して乗せ換えるProjectでした。

要件定義で風呂敷を広げて開発規模が大きくなり過ぎ、新しい技術に挑戦したこともあり、開始1年以内の第一次サービスインを目指したスケジュールは、最初から遅れが出て、半年間遅れが拡大していきました。

我々開発チームは連日深夜まで奮闘しましたが、スケジュールのキャッチアップができません。
そんな時正月三賀日の休みがあり、当時から評判のあった「失敗の本質」(野中 郁次郎他著)という本を手に取って、思わず引き込まれて読みました。
第二次世界大戦で、なぜ日本軍が負けたのかという「失敗の本質」を生々しく浮彫にした名著で、今も文庫で増刷され続けています。
その時に感じた「失敗の本質」は、日本軍が客観的事実を無視して、勝つために必要な十分な戦力、武器や物資を準備せずに、精神論だけで無理な作戦を行ったことでした。
挙句の果てには、客観的事実と異なる戦果の発表(大本営発表)まで行っていました。

読んでいるうちに、「これは自分のことではないのか?」という思いにとらわれました。
プロジェクトを進めるために、客観的に見て十分な戦力(開発要員・スキル)が確保できていないし、必ずしも合理的な作業手順ではないのに、開発チームに精神論で「頑張れ、頑張れ」と言っているだけです。

そこで、正月三日に改めてプロジェクトの戦力を見直し、大胆な梃入れ計画を作りました。
休み明けに、会社の方針で使っていた開発部隊を、上司に掛け合って、実績のある開発会社のチームに、リーダーも含めてある程度入れ替えて増強しました。また、全メンバーの進捗を大部屋の壁に紙で張り出して各自が更新する形で見える化し、止まっていたらすぐ原因を突き止めて対策を打てるようにするなど、作業手順を極力合理化しました。

追い詰められて半信半疑で「エイや!」と打った手ですが、驚いたことにまず遅れが止まり、徐々にキャッチアップができてきて、品質はギリギリの状態ながら何とかスケジュール通りのサービスインに漕ぎ着けることができました。

この経験が私の仕事上の原体験の1つになっていまして、まず客観的に(不都合なものも含めて)事実を見ることから始めることを、基本的には心掛けようとしています。

ただ、正直言いますと、その経験の後も、残念ながら心掛け悪く主観で突っ走って失敗したなあ、と思われることも今考えると幾つもあります。
やはり「まず客観的に見る」ことは、このように大切なことですが、難しいことでもあります。だからこそ、それを意識して努力してみることが必要ではないかと感じています。

プロフィール

杉田健彦
杉田健彦
大学卒業後、大手外資系コンピューター会社で25年間勤務。その間主に自動車のH社、T社のシステム開発に、テクニカルSE,PM、開発部門マネージャーとして携わった。
その後脱サラし、10年間カンボジアで胡椒農園を運営。
2020年末にキャリッジリターン社にご縁があり入社し、若い同僚たちと再度システム開発という物づくりを楽しみながら挑戦する毎日です。